クリスマスイヴの夜にそのテキストは流れてきた。
友達からのクリスマスメッセージかと思いきや、ビクトリア州政府のコロナ対策課から。まさかのコロナ検査要請の通知だった!?
要約すれば、12月20日に入ったケーキ屋Kでコロナに感染した恐れがあるので、この通知から24時間以内にPCR検査を受けて、陰性の結果が出るまでは自主隔離です、と。
唖然としてしまった。確かにその日、私は件のケーキ屋Kに行っている。だけどクリスマスケーキの注文に行っただけなので、3分とかからなかったハズだ。3分っていったら、カップラーメンにお湯を注いだウルトラマンが食べる間もなく地球から飛び立たなければならないほどに短い時間ではないかっ!? なのに、24時間以内にPCR検査を受けて、陰性の結果が出るまでは自主隔離だなんて…
コロナ感染の確認された店で買い物をしたからPCR検査を受けるようにとビクトリア州政府から通知が届いたと言っていた友達なら数人知っている。でもみんな「as long as 咳や鼻水、発熱などの症状がある場合は」と記されていて、実際症状は無かったそうだ。
私も、なぁんの症状もない。だけど明らかにこの文面からすると選択の余地はなさそうだ。有無を言わせず、24時間以内にPCR検査を受けて陰性の結果が出るまでは自主隔離を、と問答無用の通知である。しかも今日はイヴ、明日はクリスマス…
そりゃあいろんな状況があって、私の場合たぶん<感染度強>と判断された場所に居合わせてしまったんだろうけど、どうにも釈然としなかった。とはいえ仕方ないので通知にあったコロナ検査を受けられる会場リストのサイトに行ってみた。クリスマスで大半が閉まっていて、空いている会場も通常より時間を短縮させている。
ふっと、オミクロン株の蔓延でPCR検査会場が異常に混雑しているというニュースを思い出した。なんでも今じゃ検査会場の開く8時前にはもう長蛇の列ができていて、早い人など深夜2時から並んでいる!?んだそうだ。逆にこれくらいの時間の方が空いているので夕方に来た方が良いかも…などとレポーターが言っていた。
何もクリスマスに一日中PCR検査の列に並ぶこたぁないんじゃ・・・。いっそ夕方に行ってみようか。
「でもママ、明日は早く終わっちゃうからそんな時間に行ったんじゃ、検査してもらえないんじゃないの? 24時間以内にしないといけないんでしょう」と、私と一緒にケーキ屋に行って同じく要検査になってしまった娘。
確かに、それはあるかも… じゃあこの際、仏教的にMiddle Wayで。朝も夕方も止めて、早目のクリスマスランチの後、2時くらいに行くことにする。
クリスマス当日― 娘と二人、車で15分ほどの病院に向かった。ここは4月に右足の平を骨折したときにお世話になった病院である。でもコロナのPCR検査は病院の中ではなく、外に設置された仮設会場で行われている。検査を待つ人々が、噂に聞いていたように長蛇の列を作っている。列に加わろうとするも最後尾は病院の敷地からゲートを超えて外の通りへ、延々と続いていて終わりが見えない…
結局、最後尾は4時間待ちの看板を遥かに超えていた。
「ねぇママ、今日は5時半に閉まるんだよね。もう2時も過ぎてるし、これじゃあ無理じゃない?」と、娘。
実際、既に2時を回っている。それでも私たちの背後に、どんどんと列は伸びてゆく。みんなが当然のように列に加わり並んでいるので、私たちも「今日はもう無理じゃね?」と思いながらも、お喋りしながら列に並んでいた。
すぐ前の、背の高い男の子は退屈らしくスマホを取り出しヒステリックに友達にグチり始めた。ゲイっぽいお茶目な口調で細い身体をくねくねさせながら「もうやんなっちゃう~」とか言っている。
「友達から飲みに誘われて行きたくもないパブ行ったら、コロナ検査受けなきゃならなくなったのぉ! クリスマスなのにぃ。めっちゃ混んでるしぃ」
うんうん、辛いよねぇと、思わず相槌打ちたくなる。私たちみたく、たかがケーキ(でも食べたかった)をオーダーしただけでコロナ検査に回されてしまうというのもなんだかなぁ・・・感があるけれど、行きたくもないイベントにうっかり参加した挙句クリスマスの日に一人コロナ検査に自主隔離っていうのも・・・やり切れないものがあるんだろうなぁ、と。
そうこうするうち向こうから職員がやって来た。
「PCR検査はクリスマスのため今日は5時半に閉まります! ここから先、待ち時間は既に4時間を超えております! この先並んでも今日はもう無理…かと存じます。明日またお越しいただいた方が…」と、大声ながら申し訳なさそうに告げている。
そういえば、コロナ検査の異常な待ち時間にキレてスタッフに当たる人がいるとニュースでやっていた。確かに、延々と並んだ挙句に検査もできず明日また~では、堪ったもんじゃあない。フレンドリーなオージーでも、暴徒化はせずとも舌打ちくらいはするだろう。思わずお下品な指並びを出してしまったり、4 letter wordsを雄叫びしたくなる輩もいるかもしれない。
オージー文化でクリスマスは家族の集う、1年で1番くらいに大切な日である。思えばそんな日に、症状も無いのにコロナ検査で何時間も待たなければならない人たちというのも気の毒だけど、検査や治療やワクチンで仕事をしなければならない人たちはものすごぉくお気の毒である。
職員の方々、ほんとうにご苦労様です。お忙しいのにわざわざ教えに来てくださって、ありがとう。
アドバイスに応えて何人かが動き出した。私たちも、明日また来なければならないというのはシンドイけれど、何も意地張ってクリスマスを列に並んで過ごしたくもなかったので、これ幸いと立ち去ることにした。もしかするとTVレポーターは「ほぉら今頃の時間に来ればこぉんなに空いているでしょう」と言っていたけれど、あれは職員の呼びかけで既に多くの人たちが諦めて帰ってしまった後だったからかもしれないナ。
時計を見ればまだ3時前である。これでせめても後半はクリスマスできる。
翌日はBoxing Dayで休日の日曜だった。予定では年に1度のボクシング・デイ・セールに行くハズだったが、やむなくコロナのPCR検査に再出陣だ。今日は検査会場の開く8時前、7時半ごろを目安に行くことにして、朝食のおにぎり持参で(でもトイレに行きたくなると困るのでドリンク系は持たずに)列に加わった。
会場には早くも長蛇の列ができていた。それでも前日よりも小ぶりな蛇だったのが救いである。私たち同様、昨日からのリベンジ組も多いのか、列に並ぶ人々の様相にも気合が入っている。折り畳み式の椅子持参で並ぶ人たちの姿もちらほら。子沢山の家族連れはボールやおもちゃやお弁当持参で、ほとんどピクニックのノリである。
実際ベビーカーや幼児連れの家族も多く、気の毒だった。木陰で授乳している母親までいて、涙を誘う。私たちのすぐ後ろに並んだ幼い姉妹などパジャマにガウンを羽織ってスリッパ姿。いかにも今さっき起こされました然として眠たげに瞼を擦っていた。こんな小さな子たちまでPCR検査を受けなきゃならないなんて…
炎天下で待たされた昨日の経験から帽子は被ってきたけど、日差しより、朝は思いのほか寒かった。一日に四季があると謳われるほど天気の変化の激しいメルボルン、列に並ぶ人々の服装も様々だ。クィーンズランド州海辺のリゾート地から抜け出てきたようなサマードレスとTシャツ短パン姿の老夫婦から、タスマニア州の山岳地帯からやって来たみたいな厚手のもこもこフェザージャケットを羽織った女性まで。
とはいえ季節は夏だし、天気予報でもそれほど寒い日でもなかったのに、並んでいるうちにどんどんと寒さが増してきた。そのうちちらほらと冷たぁい小雨まで。予報でも多少雨の確率は出ていたから傘は持ってきていたけれど、もこもこおばさんのダウンジャケットが羨ましくて堪らなくなる。
寒さに震えつつ、娘とお喋りしながら待つことほぼ2時間。やっと仮設の検査施設に入れたときにはホッとした。素材的にはテントとはいえ、やはり雨風を凌げるというのはありがたいものだ。
それにしても、とふと思う。自分たちのような症状の無い人間はいいとしても、コロナの症状が出ている人たちがこの環境で待つのはしんどいだろう。もちろん重症化している人たちは病院の救急医療に行くのだろうけれど、救急に行くほどではないけれど熱があるとか咳が酷いとかいう人たちは、どうしているんだろうか?
中に入ってからは30分と待つこともなく検査を受けることができた。まずレセプションで受付をし、次の場所でPCR検査キットを渡され説明を受けて、ブースになっている検査場で看護士さんと思しきスタッフから検査をしてもらう。長~い綿棒みたいなものを鼻腔の奥へ、眉間に届けとばかりに入れられるので吐きそうになったと言っていた友達がいたけれど、それほどじゃあなかった。ちょっと擽ったいような感じに、くしゃみが出そうになって堪えるのがしんどかったくらいで。
検査の結果は事前に登録した携帯に通知がくるのだそうで、娘と二人そのまま会場を後にした。終わった~!の解放感に帰り道はビーチカフェに寄ってコーヒーでもテイクアウェイして海辺をお散歩して帰りたいところだけれど、結果が出るまでは家で自主隔離しなければならない。いそいそと自宅に戻った。
このところオーストラリアもオミクロン株で毎日恐ろしい勢いで感染者が増加している。そのうえクリスマス休暇で異常に混み合っていて、検査結果が出るまで通常以上に時間がかかると聞いていたので覚悟はしていた。けれどあっさり翌日の午前中に通知が来た。
晴れて、陰性。
Yeah! 早速セールに出かけようかと思ったけれど、陰性の通知を受け取ったときには既に大掃除に掛かっていたのでそちらを続けることにした。まったく、予定外のコロナ検査で年末の予定が大狂いである。
それでも翌日には、残り物には福とばかりに子どもたちとBoxing Dayセールを狙ってシティに出かけた。張り切って出たのに、大勢の人で賑わうデパートやブティック、お店に入ろうとするたびにいちいち躊躇してしまった。
この人込みである。ここにいる人たちからコロナ感染が出た場合・・・ なんといっても2年連続「世界一ロックダウンな都市」の座に輝いた(?)メルボルン。ビクトリア州コロナ・アプリのシステムが、QRコードの記録から感染者が行った場所を認識し、速攻オートマティックにそこに居合わせた人々に検査要請の通知を発信してしまうんだろう。
それでまた後日コロナ検査のお知らせが届いてしまったら…
大晦日と新年を再びあの、長蛇の列に並ぶのか、と。
そう思ったら気持ちが萎えて、思っていた半分の場数もこなせなかった。
その後オミクロン株の蔓延で膨れ上がったコロナ検査の数に検査システム自体が危機に晒されたそうで、急遽オーストラリア政府は緊急会議を開き、「Close Contact 濃厚接触者」定義の見直しを余儀なくされた。それでずっと緩い規定になったせいか、私も結局コロナ検査の通知を受け取ることもなく新年を迎えることができたのだった。
それにしても、2021年もコロナに振り回された1年でした。
2022年は、どんな年になることやら…。
世界が少しでも明るい年になるように願って止まない。
Happy New Year!
皆様の2022年が良いお年でありますように。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
イラストは、娘がクリスマスカードに描いてくれた挿絵です。
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